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総務省の無策すぎるキャッシュバック規制

総務省携帯電話キャリアに対して「過度のMNP新規加入者に対するキャッシュバック」を自粛するように要請したとの情報が流れている。実際、携帯電話販売店を見ていると、n台同時乗り換えでx万円キャッシュバックなどという宣伝が飛び交っており、中には確定申告が必要なほどの巨額キャッシュバックを盛っている例もある。札束で殴りあう実に下品な状態だ。

MNP新規加入者に対して端末を安く販売する施策自体は、数年前から行われていて、私も欲しい端末を安く入手するためにこの施策に乗っかったことは結構ある。それでも昨今のキャッシュバック額のインフレは、少々やり過ぎているのではないかというふうに感じていた。

このような情勢の中、総務省から異例の「通達」がやってきて、とりあえず過剰なキャッシュバック競争は小休止することとなった。しかし、私はこの規制は何ら本質的な問題解決にはなっていないと感じている。そう考える理由を、ここまでキャッシュバック競争が激化した経緯を見ながら書いていきたいと思う。

MNP新規加入者に対してキャッシュバックを行うという施策のそもそもの原点は、2年縛りの解約金を転入先のキャリアが負担するという施策である。現状、日本のキャリアで普通に携帯電話を契約すると、まず間違いなく2年縛りというものがついてくる。契約月から2年毎にやってくる更新月という月以外に解約しようとすると9,500円(税抜)という非常に高額な違約金を取られるという制度である。2年縛り自体は、MNP制度が始まる前から存在していたが、MNP制度が始まってからは、MNPで他社に出て行ってしまうという事態を防ぐための一種の防波堤になっていた。

キャリアとしては、なるべく既存の客には出て行ってほしくないが、他社の客を奪って自分の客としたいという心理がある。なぜなら、現状日本のキャリアの質を定量的に評価できる指標は、契約数がどれだけ増加したか、すなわち純増数しかないからである。純増数を稼げば、企業価値が向上し、株価も上昇させやすい。そんな環境の中、自然発生的に転出の際にかかる費用を転入先のキャリアが負担するという仕組みが生まれた。

やがてスマートフォンというものが登場し、携帯電話キャリア固有のサービスというものが無意味化するようになった。どのキャリアのスマートフォンを使っても概ね同じようなサービスが得られる時代の到来である。そうすると、MNPに対する人々の心理的な障壁は下がることとなった。LINEの登場もMNPに対する心理的障壁を下げただろう。LINEはキャリアメールの必要性を大幅に低下させた。ますますキャリアごとのサービスの差が縮まったのである。MNPが徐々に人々に身近な存在になるにつれ、売れずに残っている不人気端末に多額の販売奨励金をつけ格安で販売することで純増を稼ぐという手法が生まれた。

そうした手法によって不人気端末を処分しつつ純増を稼ぐという体制がしばらく続いたが、やがてキャリアも不人気端末を格安販売するだけでは他社に対して優位な純増数を稼げなくなったので、ついには最新鋭の人気端末にすら多額の販売奨励金をつけるようになった。こうしてiPhone 5sですらタダ同然で投げ売られる体制が完成した。

このように経緯を見ていくと、この過剰なキャッシュバック競争は、もともと2年縛りという制度が原因なのではないかという気がしてならない。人々がキャリアを変えるという行為に対して、9,500円もの高額の出費が必要なほどにガチガチに縛っているから、現金を積んででもキャリアを変えさせるということをしなければならなくなっているのではないか?スマートフォンの普及によって、各キャリアのサービスの差が薄れ、違約金以外に乗り換えに対する障壁がなくなってきていたこともあり、「金さえ積めば乗り換えさせられる」という空気が強まったのではないか。

じゃあ2年縛りをやめさせることが良いのかというと、それもまた現状では難しいのだろうというのが私の考えである。2年縛りをやめれば、端末を安く販売するということはまず難しくなるだろう。そうなると、ミドルレンジあたりの端末を中心に販売することになるわけだが、ハイスペック端末に慣れきった日本人がミドルレンジの端末で満足できるのかは、はっきり言ってわからない。

自由はないが、最新鋭の端末を利用できる環境を選ぶのか、多少端末スペックなどでは今より劣る可能性はあるが、回線と端末が分離され自由な環境を選ぶのか。総務省はまずこのような足元の指針をしっかり定め、携帯電話キャリアの監督をして欲しい。足元の指針が定まらぬまま、対症療法的に規制をしたところで、結局事態は大きくは変わらない。SIMロック原則解除の指針も結局言ってみただけで、宙ぶらりんの状態だ。総務省は言うだけ言って何もしない省庁だと言われても仕方ない。